この前、歩きながらiPhoneで音楽聴いてたら、この曲がかかったんです。でも俺、ベスト盤で最初に一回聴いただけで、今まで完全スルーしてたんで、その時は何の曲だか分からない。
イントロから歌が始まるまでの20秒の間に、頭で脳内音楽データベースを検索します。
「何だっけこれ……ジャネット・ジャクソン? いや、もうちょっと安いな。『美味しんぼ』のアニメの主題歌か?…ってそんなの俺のiPhoneに入ってないや、とにかく80年代後半の曲なんだけど…」
……ってところで歌が始まり、歌い出しは誰か分かんなかったけど「夜風につつまれて〜♪」で熊井ちゃんの声を確認、「なんだBerryz工房か……」と一件落着。
いやしかし、この「さぼり」という曲、完全にバブル絶頂期、それも88〜89年という超ピンポイントのサウンドがもの凄いリアルに再現されてるんですよ。このいかにも80'sデジタルっぽいドラム、左チャンネルでずっと鳴ってるチャイム風のキーボードの音! そして何よりサウンド全体を包むデジタルリヴァーブ音が、むせかえるようなバブル臭を漂わせています。
恐らくこの曲のアレンジャー氏もトラック作りながら最高に面白がってたと思う。「んー、こんな感じだったよな、バブルの頃の音は」って。機材なんかも当時のを引っ張り出してきたりして……そこまではやってないか。
それにしても、「たこ焼き屋デート」を歌ったつつましい中学生ラヴソングをバブルサウンドでコーティングするなんて、本当にBerryz工房らしい音楽的ユーモアだな、と思う。
【参考楽曲】
ジャネット・ジャクソン / Come Back To Me
前回ビートルズ関連の話を書いたので、その流れで今回はこれいきましょう、Berryz工房「蝉」。
キッズグループの、しかも単なるアルバム収録曲にここまでやるか!ってくらい良く出来ていることにまずショックを受ける曲ではありますが。
「ハロプロで一番ビートリーな(ビートルズっぽい)曲は?」と問われれば、俺はこの「蝉」を挙げます。
「ビートリー」ってのは微妙な概念なんですけどね。初期のロカビリーっぽい感覚から中後期のサイケっぽい感じまで様々なサウンドを提示したビートルズですが、この曲はサイケっぽい方のビートルズ・サウンド。
まず、なんも考えずに聴いても耳に付くのは序盤からチョロチョロ鳴ってる逆回転サウンドですが、これが全開になる間奏後の「あーと三日もーしーたらー〜」のところ、ここはちょっと凄いよね。ここは有名曲「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」の1:20過ぎと2:05過ぎの逆回転部分にかなり近い雰囲気です。単に曲のアクセントというには、余りに丁寧な作りではありませんか。
そして、基本的なサウンドですが、これはズバリ「レイン」でしょう。コード進行とかメロディとかではなく、サスティンの長いベースの音色&フレーズと、ドラムのドコドコ転がるようなタム回し……このリズムトラックは「レイン」に代表される中期ビートルズの雰囲気をよく再現&再構築していると思います。本当に素晴らしい。
あとこの間奏。ビートルズとは関係ないけど、これも良く出来てますよね。主メロとバッキングギターが絡んで万華鏡のようにカラフルに展開してゆく様が美しく、見事です。
という訳で「ビートリーな曲」の見本のようなBerryz工房「蝉」、これはビートルズ好きのお友だちに聴かせてあげると喜ばれると思いますよ。
【参考楽曲】
ビートルズ / レイン
ビートルズ / ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー
さて、さんざんBerryz工房について書いてきたので、ここらで中間総括です。
俺は実はBerryz工房をまともに聴き始めたのは数ヶ月前からの話で、それまではあまり興味はありませんでした。ちょっと歌唱力に難がありますからね、夏焼雅さん以外。それに楽曲がエンタメ路線というか、コミックバンドみたいなもんだと思ってたから。音楽性なんてどうでもいいグループなのかな、とか思ってたんですよね。
℃-uteがほぼ一貫してユーロ歌謡(ユーロビートっぽいリズム+歌謡曲っぽい泥臭いメロディ)路線であるのに対し、Berryz工房の楽曲ってあまり一貫性がないし。
でも、ベスト盤を買い、主なシングルをiTunesでDL購入して主要曲を聴いていくうちに浮かび上がってきたのは、「Berryz工房の楽曲はポップミュージックの一大歴史絵巻である」という事実であります。それを今までさんざん書いてきた訳ですが、俺が気付いたのをまとめると下記の通り。俺はアルバムは一枚も持ってないので他にもあると思うんだけど。
・笑っちゃおうよ BOYFRIEND = 50's ・オールディーズ(ポール・アンカとか)
・VERY BEAUTY = 80年代全盛期の松田聖子(秘密の花園とか)
・告白の噴水広場 = 80年代ニューミュージック・村下孝蔵(初恋とか)
・付き合ってるのに片思い = 70年代アイドル歌謡 (たぶんキャンディーズ)
・MADAYADE = 60年代グループサウンズ(ギターがベンチャーズ)
・友達は友達なんだ! = aikoそのもの
・シャイニングパワー = フィリーソウル or 70年代ソウル歌謡(ルパン三世opとか)
…という具合に多くの楽曲に、様々なジャンルのポップスに対するパロディやオマージュが溢れていて、聴いていてとても楽しい。きっとBerryz工房の制作スタッフには、音楽好きの人が多いんじゃないかな。
恐らく、Berryz工房の楽曲を制作する前には、「次どんな感じでいく?」みたいな会議があると思うんですよ、俺の想像だけど。んで「じゃあ、次のシングルは70年代のキャンディーズみたいな雰囲気で行こうか」ってことで「付き合ってるのに片思い」が生まれた、とかね。俺の想像だけど。
新曲「ヒロインになろうか!」は8thアルバムあたりのモー娘。を彷彿させる楽曲でありましたが、いったい次はどんな音楽スタイルを狙ってくるのか。Berryz工房にはそういう楽しみがある。
これまで「この曲はあの雰囲気っぽい」とか推測で書きまくってきましたが、今回だけは100パーセント確実。証拠つきですから。
前から「告白の噴水広場」は、村下孝蔵「初恋」っぽいなー、とは思ってたんですよ。具体的にどこって訳じゃないんだけど、高校の放課後っていうテーマが同じだし、マイナー調のメランコリックな感じがそれっぽいのかな。それに、ハープシコード風のキーボードが似た印象を与えてる。
で、この前ふと気になってiTunesに入ってる音源を聴いてみたわけ、「初恋」。そうしたら、イントロのドラムが同じじゃん、これ! 下にyoutube貼ったんでイントロだけでも聴いてみてください。凄いですよ、洒落っ気があるよね、これやった人。「さあ、これから村下孝蔵の『初恋』っぽい曲やるから聴いてね」って隠れメッセージですから。最高のオマージュですよね。
ところで、この歌詞のストーリー、最後まで聴くと告白が成功した訳だし、結局はハッピーエンドなんですよね。だったらそもそも、こんなにメランコリックな曲調にする必要なかったんじゃないだろうか……。
【参考楽曲】
村下孝蔵 / 初恋
普通に好きな曲なんだけど、この歌詞がさあ、恋バナとかなんとか、こういうのガールズトークっていうの? 「aikoかよ!」とか思っちゃったんですけどね。
恐らく聴衆の九分九厘までを男性ヲタが占めるであろうBerryz工房、女性の共感を呼ぶような歌にしたところで、いったい誰が得するのかという感じでありますが、俺はなかなかいいチャレンジだと思う。もしかして何か間違って「恋愛の教祖」とかになれるかもしれないし。
……と、ここまで考えて、俺aikoなんてあんまり聴いたことないから分からなかったけど、ひょっとして曲調も似てるのかな、と思ってネットで動画検索してaiko聴いてみたら、やっぱ曲調もサウンドもaikoっぽいと思った。いかにもR&Bを崩した00年代J-POPというサウンド、そしてシャッフルのリズムのニュアンスがaikoっぽいと思うんですよ。俺がチラッと聴いた中では「アンドロメダ」って曲がそれっぽかったかな。しかし何でもやるよね、Berryz工房。
Berryz工房「シャイニングパワー」のバックトラックが余りにもカッコいいので、インストverをDL購入してしまった。ハロプロ楽曲の中でも最高の編曲なんじゃないのかな。
このブラスとストリングスが絡むダンサブルな感じは、もろにフィリーソウル(フィラデルフィア・ソウル)ですね。70年代前半〜中盤に流行したブラックミュージックのスタイルです。「ソウルトレインのテーマ」が有名。
ダンス☆マンみたいな完全なディスコサウンドではなく、その一歩手前って感じのこのスタイルは、70年代後半の日本でも盛んに応用されていたので、同時にその頃のジャパニーズポップスの雰囲気も出てるから面白いです。っていうか今思ったけど、この「シャイニングパワー」は、直接的には「ルパン三世のテーマ」の影響かもね。
しかし最近のサンプリングキーボードは、ストリングスもブラスも本物みたいでビックリします。このバックトラックもほとんど一人でDTM体制で作ってたら凄いな。憧れてしまう。
【参考楽曲】
ソウルトレインのテーマ(T.S.O.P -The Sound Of Philadelphia-)/ M.F.S.B
ルパン三世OP
好き嫌いは別にして、「ハロプロで最も完成度の高い楽曲」を挙げろと言われたら、俺はこの曲を選びます。
たぶんこの曲は、思いついてから数時間で完成したんじゃないかと思うんですよね。そう思わせるくらい、楽曲の流れが一筆書きのように自然で無理がない上に、圧倒的な勢いがある。イントロからエンディングに至るまで、展開にいちいち必然性がある。
アレンジも凄い。女性コーラスの「ハッ、ハッ」とか「シャバダバ」、夏焼雅の「ぅお〜うぅおうぅおうぉおいぇーぃ」、イントロのささやき、間奏の安っぽいブラス、それぞれのフレーズが、絶対に他に換えが効かない、すべてが「これが無しでは"スッペシャル ジェネレ〜ション"という楽曲が成り立たない」っていうくらい必然性に満ちている。
勢いってことで言えば、歌詞もそうなんですよ。俺、たぶんこの歌詞は最初、仮歌のつもりだったと思う。Berryz工房の歌詞って、他のは過剰なほどにストーリー性があるのに、この曲は全くのナンセンスでしょう? 「なんで池袋?」とか「そんなチャラチャラした男と100万年も続いていいのか」とかもそうだけど、「そもそもスペシャルジェネレーションラブって何よ」って根本的な疑問もある。
だから、これは俺の推測なんだけど、多分、録音する前に別のちゃんとした歌詞を作ったと思う。今のこの歌詞は商品化できるかどうかのギリギリのラインだと思うもん。だけど、適当に作ったこの仮歌が余りにもメロディと一体化してたので、仮歌を超える詞にならなかったんじゃないかな。「どーたらこーたら」とか「いーけぶーくろを過ぎたってー」とかのハマり方ってなかなか超えられないですよ。んで「じゃーちょっと意味不明だけど、このままでいいか!」って話になったのではないか、と。その辺の強引さがまた楽曲に勢いを与えているんじゃないかな−、と俺は思う。
さらにPVの作りにも、相当な強引さを感じる。もう勢いだけでやってるんじゃねーか、みたいな。っていうのは、サビの手をクロスさせるダンスをはじめ、青い放射デザインのバックとか、全体的に初代ウルトラマンの雰囲気を表現してると思うんだけど、それって単に歌詞の「100万年過ぎたって〜」ってフレーズが宇宙的な響きだからってだけなんだよね、たぶん。PV&ダンス制作者の解釈によってはひょっとして恐竜踊りになる可能性もあったかと思うと、ヒヤヒヤしますね。
と絶賛してまいりましたが、好き嫌いでいうと俺はそんなに好きじゃない。この猥雑さがどうにも。でも、十代前半の女の子を集めて、よくもまあこんなに猥雑な雰囲気を表現したものだなと思う。そこも、この曲の凄さのひとつ。
実はBerryz工房を聴き始めたのはごく最近なんだけど、youtubeで「笑っちゃおうよ BOYFRIEND」を観てたら、エンディングで凄い違和感を感じて。
「この違和感は何だろう」って考えたら、この曲、フェイドアウトしてるじゃないですか。
恥ずかしながらその時まで意識したこと無かったんですが、ハロプロってフェイドアウトの楽曲ってまず無いですよね。今思いつくのは「ダディドゥデドダディ !」くらい。あと何気に「ふるさと」もそうか。まあ、全部聴いた訳じゃないから例外はまだまだあるでしょうが、「基本的にフェイドアウトは無しで」というのがハロプロの楽曲制作における不文律になっていると思われます。
これは当然、CD音源のカラオケがそのままライヴに使えること、そしてエンディングがCD音源と変わらないので観客が違和感なく聴ける、ということを目的としているのでしょう。ハロプロの商売が「コンサートありき」で成立していることを窺わせます。
となるとこの「笑っちゃおうよ BOYFRIEND」は、なぜフェイドアウトなのか。この曲は聴けば分かるとおり50'sのロカビリーっぽいポップソングなんだけど、そのオールディーズっぽい雰囲気を出すためにフェイドアウトにしてるはず。
フェイドアウトっていうのは、昔のブルースだかダンスミュージックだかをレコード化する際に、「ここから先はエンドレスで続きます」ってことを暗示する意味で始まった手法らしいんだけど、この手の楽曲はフェイドアウトの方がオールディーズっぽい雰囲気になるんですよね。
そう考えると、「笑っちゃおうよ BOYFRIEND」というシングル曲をフェイドアウトにした判断ってけっこう凄いと思うんですよ。コンサートのやり易さという商売よりも、「楽曲の雰囲気」っていう音楽性を重視した、ということですから。俺はこの辺が、ハロプロの楽曲制作陣の信頼できるところだと思う。
【参考楽曲】
ポール・アンカ / ダイアナ
普通に名曲だと思うわけですが。でも、なんつーか、こんなくっきりしたメロディの女性らしいポップスって、ありそうで最近のJ-POPにはない雰囲気なんですよね。ちょっと懐かしいような。何だっけ、この感じ……と思って、俺の脳内ミュージック・データベースを検索してみたところ。
これ、80年代初期の松田聖子をやりたかったんじゃないかな。松本隆が詞を書き、大瀧詠一とか松任谷由実が曲を書いた頃の、あのCBSソニー全盛期サウンド。
80年代の化粧品のコマーシャルに使われそうな雰囲気じゃないですか、この曲のフェミニンな感じは。
で、イントロはじめ、サビとか間奏で鳴ってるストリングスのサンプリング・キーボードあるじゃないですか。あれ、本当はオーケストラでやりたかったんじゃないかと思うんですよね。あそこをはじめ、サンプリング・キーボードとかギターのフレーズを生のオーケストラに差し替えたら凄いハマると思うし、恐らくオーケストラ演奏を想定しているアレンジだと思う。しかし「世界のソニー」の看板娘であった人気絶頂の松田聖子ならともかく、CD不況のこの時代、Berryz工房のシングルは数万枚しか売れません。オーケストラを雇って大きなスタジオでレコーディングする費用など掛けられない、ということなのでしょう。
で、ここまで考えて「じゃあ、松田聖子ってどんな音だっけ」と思ってyoutube検索して、一番この「VERY BEAUTY」に近い曲調の「秘密の花園」を聴いてみたら、サウンドの豪華さに改めて驚いてしまった。こんな他愛のないポップスに生のオーケストラ被せるなんて、今じゃ考えられないですよね。この人海戦術的な贅沢さ、まるでCG以前の超大作ハリウッド映画『十戒』とか『ベン・ハー』を観ているようです。
コンテンツ産業が衰退する21世紀、こういうカネと手間と人手がかかったエンターテインメントはもう作られなくなっていくのだろうなあ、などと考えながら「VERY BEAUTY」のイントロのキーボードの音を聴いていると、俺は少し寂しくなってしまうのです。
【参考楽曲】
松田聖子 / 秘密の花園
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